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おすすめ図書No.19 黙殺

タイトル 黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い

著者 畠山理仁

発行 集英社

 

著者について

1973年、愛知県生まれ。フリージャーナリスト。

取材対象の中心は、(国政、地方問わず)選挙とその候補者達。

この著書で2017年第15回開高健のノンフィクション賞を受賞。

 

内容と感想

政見放送と選挙広報以外のメディアでほとんど報じられない、

“無頼系独立候補”たちを真摯に取材し続けた記録。

私たちに届かなかった彼らの声が詰まった一冊。

 

※著者による造語。いわゆる三バンの無い泡沫候補者たちに対して敬意を込めた呼称

 

【立候補者は有能であるという前提】

「選挙に立候補する事は多くのリスクを伴う」という

当たり前の事を思い出させてくれました。

 

世界でもダントツで高額な供託金と

選挙戦を戦うための様々な経費による経済的なリスク。

偏向報道、切り抜き報道による社会信用を失うリスク。

 

討論に慣れていない日本人はアンチに対して、

匿名でのバッシングや(政策でなく、人物に対しての)攻撃をしがちなので、

安全上のリスクもあるかもしれません。

 

立候補者たちは、これらのリスクを理解し、受容した上で、

選挙戦という民主主義における戦いの場に立っています。

おそろしいリスクを受け入れてでも訴えかけたい事がある事自体、

人間として素晴らしいと思います。

 

”立候補者たちは強い思いや決意があり、

それを行動に移せる有能な人たちである”

という前提の元、これからの選挙を見ていこうと思いました。

 

【知る権利と知らせる義務】

正直、私も無頼系独立候補を見て、

「なんでこんな奇抜な事をやっているのだろう」とか、

「当選する見込みが無いのに何で出るのだろう」とか、

「本業の宣伝や売名行為ではなかろうか」と思った事がよくありました。

 

ここには、有権者が”候補者とその訴えを知る権利”と

行政の”全候補者を公平に扱い、有権者に知らせる義務”の問題があると思います。

 

先進諸国における選挙の様子やルールについても

言及されておりますので、ぜひ読んでみてください。

 

日本で暮らす我々の権利や自由を守るための

ルールや計画を作る代表者を選考する事が、選挙の目的です。

現行の日本の選挙のルールは公平さに欠けているようです。

全ての当選者を”正当に選挙された”人と呼べるか疑問を持ちました。

 

【奇抜なパフォーマンスの理由】

選挙報道の公平さの問題は、行政や公共放送だけの問題ではありません。

知らせる力の強い、大きなメディアは商業化しており、

利益が発生しやすいモノ(多数派にウケるもの、会社に見返りがあるもの)を大々的に扱います。

選挙報道でも同様の原理が働き、

主要候補とそれ以外に区分し、取り扱い方に雲泥の差が生じています。

 

主要候補はテレビや新聞、雑誌でたくさん見れますが、

無頼系独立候補は政見放送と選挙広報以外では見る事ができません。

 

この実情に対する当人たちの思いも記されています。

彼らの思いを知ってしまうと、

政見放送での奇抜なパフォーマンスに対する受け止め方がまるで変わります。

 

【まとめ】

”経済的利益の発生量=取り扱う価値”という、

新自由主義的イデオロギー下における報道原理に真っ向勝負している一冊だと思いました。

後ろ盾やしがらみの無いフリーランサーの言説には、野生動物的な美しさを感じます。

 

【参考】

【DVD】れいわ一揆

ドキュメンタリー映画の鬼才、原一男監督による作品。

れいわ新撰組の候補者の一人、安冨歩氏に密着した。

 

【DVD】立候補

藤岡利充監督によるドキュメンタリー映画。

第68回毎日映画コンクール・ドキュメンタリー映画賞受賞。

無頼系独立候補の代表格とも言えるマック赤坂を中心に選挙活動やその裏側が映像化されている。

本気のマックとそれを嘲笑する選管や記者の表情。

一人で戦うマックと大衆や権力を盾に罵詈雑言を投げる中高年。

このグロテスクなコントラストは映画作品として、とても面白かったです。

 

【知る権利についての蛇足&追記】

時々、不忍池や上野公園を通る事がありますが、

若そうなホームレスや新参っぽい(先住の人達とは雰囲気が異なる)ホームレスらしき人が増えているように感じます。

 

彼らは無利子で貸してくれるお金の事やセーフティネットや

税金や保健料、水道光熱費の免除や延納について知っているのだろうか。

 

”健康で文化的な最低限度の生活を営む”権利を守るために、

様々な制度が作られています。

煩雑な割に得るものが少なかったり、

条件が厳しすぎて必要な人が利用できなかったり、と問題も多いですが。

 

有用な制度が運用されている一方で、

それを知らずに貧困の苦を享受している人々もいると思います。

消費者金融へ行く前に、住まいを失う前に、

うつ病が悪化して身動きが取れなくなる前に、

利用できる策がある事を知らせなければいけません。

 

本来、自治体や行政の職員が彼らをコンサルし、

社会復帰へ導かなければいけません。

公務員は”共同体全体の奉仕者”なのですから。

ボランティアに任せている現状には問題があります。

 

「聖域なき構造改革」などと宣い、

小さな政府を目指してきたのは間違いだったのでしょう。

 

自治体職員の数や質(他にも病床の数やインフラ整備etcも)は、我々にとって聖域です。

困った時に助力してくれる、頼れる団体でなければいけません。

本当に変えなければいけないのはここではないだろう。

うまく煙に巻かれたものです。

方向修正してくれる人を選挙で選びたいものです。