タイトル 夜と霧 新版
著者 ヴィクトール・E・フランクル
訳者 池田香代子
発行 みすず書房
参考完読時間 169ページ/200分
ヴィクトール・E・フランクル(1905~1997年)。ウィーンに生まれる。
ウィーン大学卒業後、アドラー、フロイトに師事し、
精神分析学を学び、精神科医として務めていた。
第二次世界大戦の戦時下、ドイツのオーストリア併合から数年後の1944年に
アウシュビッツにある強制収容所に収容される。
約半年後にアメリカ軍によって解放されるが、
共に収容された家族は亡くなってしまう。
精神科医であり、大学教授であり、精神分析学の心理学者であった著者による、
強制収容所生活の記録と被収容者の心理面の考察を記した一冊。
強制収容所での生活の詳述ではなく、
心理の専門家の視点で、被収容者たちの心理面に焦点を当てている事が特徴です。
肉体的にも精神的にも、常に死と隣り合わせの極限状態が続く中で、
被収容者たちの心理が変遷していく様子。
その大半が、次第に人間らしさを失い堕落していく一方で、
良心を失わず、毅然と苦しみに対峙するごく一部の人たち。
自分が管理する収容者たちに(内密かつ自費で)薬を与える収容所の所長と
同じ被収容者でありながら、仲間を殴り嫌がらせをする、班長に任命された男。
この残酷で狂気に満ちた世界が、
70年前に実存していたと思うと実に恐ろしい。
【暫定的存在】
人間は自分のありようの先行きがわからなくなると、
(本書で言う”暫定的存在”)
将来の展望が持てなくなり、生存の目的を失い、
自己を放棄しやすくなってしまう、と言います。
わずか半年という期間でも、
精神構造が崩壊し”生きる屍”状態になっていく仲間が大勢いた、
という著者の記録は、強制収容所生活が非人道的で桁外れに過酷であったことを物語っています。
政府や自治体が迷走し、社会全体が混乱の中にある今般において、
“暫定的存在”状態に陥って苦しんでいる人が増えていると思います。
そのような人にも是非、読んでみてほしい本です。
著者は、生きる苦しみについて、極論とも言える一つの解を示しているからです。
(個人的には、的を射た極論は真理に近いと思っていますが、
あくまで、解の一つに過ぎない事を念頭に置くといいかもしれません)